2025/11/28
無事に会社設立登記が完了し、いよいよ事業のスタートです。しかし、会社を設立してすぐに事業が軌道に乗り、安定した収益が上がるとは限りません。そこで重要になるのが、事業を安定させ、成長を加速させるための「資金調達」です。
連載第4回は、起業家の強い味方となる「創業融資」と、返済不要の「補助金・助成金」に焦点を当てます。特に、港区や東京都が提供する手厚い支援制度を最大限に活用する方法を、具体的な制度を挙げながら徹底解説します。
創業時に十分な資金を確保しておくことには、計り知れないメリットがあります。
自己資金だけで始めることも可能ですが、融資などを活用して「手元の現金を潤沢にしておく」ことが、ビジネスを成功させる上で非常に重要な戦略なのです。
創業時の資金調達として、最も多くの起業家が利用するのが「日本政策金融公庫」です。政府が100%出資する金融機関であり、民間の銀行に比べて、創業したばかりで実績のない企業にも積極的に融資を行っているのが最大の特徴です。
(出典:中小企業庁 金融サポート)
この制度を利用するには、説得力のある「創業計画書」の作成が不可欠です。事業内容、必要な資金とその使い道、そして収益の見通しなどを具体的に示す必要があります。
日本政策金融公庫と並行して、ぜひ活用したいのが港区独自の支援制度です。
(出典:港区立産業振興センター 融資あっせん)
これは、港区が金融機関(銀行や信用金庫)と東京信用保証協会の協力を得て、中小企業が必要な事業資金を低利で借りられるように「あっせん(紹介)」する制度です。
【制度の仕組み】
区が間に入ることで、金融機関からの信頼性が増し、融資を受けやすくなるという大きなメリットがあります。
港区の制度融資を利用して融資を受けた場合、なんと支払った利子の一部を港区が補助してくれます。
例えば、創業支援融資(利率1.7%以内)の場合、支払利子の全額が補助されるなど、非常に手厚い内容となっています(※条件や上限あり)。これは実質的に無利子で融資を受けられることに等しく、活用しない手はありません。
融資と違い、原則として返済が不要なのが「補助金・助成金」です。申請手続きや審査はありますが、採択されれば事業の大きな助けとなります。
(出典:港区ホームページ 中小企業向け補助金)
(出典:東京都中小企業振興公社 助成金事業)
都内で創業を予定している方や、創業後5年未満の中小企業を対象とした、非常に人気のある大規模な助成金です。
これらの補助金・助成金は、募集期間が限られているため、港区や東京都中小企業振興公社のウェブサイトを定期的にチェックすることが重要です。
今回は、港区で会社を設立した際に活用できる資金調達の方法について解説しました。
いずれの方法においても、審査員を納得させるだけの具体的で実現可能性の高い「事業計画書」がすべての基本となります。専門家の支援を受けながら、自社の強みと将来性をしっかりとアピールできる計画書を作成しましょう。
次回予告
いよいよ最終回、第5回は「設立後の手続き編」です。会社設立はゴールではなくスタート。税務署や年金事務所への届出など、登記完了後に必ず行わなければならない手続きを網羅的に解説します。
Q1. 自己資金がほとんどゼロに近いのですが、融資を受けることはできますか?
A1. 非常に難しいですが、可能性はゼロではありません。日本政策金融公庫の「新創業融資制度」では、自己資金要件が緩和されるケースとして「現在の企業に継続して6年以上勤務している方」や「認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める方」などが挙げられています。しかし、一般的には、事業に対する本気度や準備状況を示す意味でも、ある程度の自己資金(創業資金総額の10%~30%程度)を用意することが望ましいとされています。まずは少額からでも自己資金を貯める努力をすることが、融資審査において好印象を与えます。
Q2. 「補助金」と「助成金」の違いは何ですか?
A2. 一般的に、「補助金」は経済産業省や地方自治体が管轄し、主に新しい技術開発や地域振興など、政策目標の実現を目的としています。公募期間内に申請し、審査を経て採択される必要があり、競争率が高いものが多いです。一方、「助成金」は厚生労働省が管轄し、主に雇用の安定や労働環境の改善を目的としています。定められた要件を満たしていれば、原則として受給できるものが多く、通年で募集しているケースが一般的です。
Q3. 創業計画書は、自分で作成するべきでしょうか?専門家に依頼するべきでしょうか?
A3. ご自身の事業内容を最も理解しているのは、もちろんご自身です。そのため、事業の核となる部分や想いは、ご自身の言葉で書き出すことが基本です。しかし、融資審査の担当者が納得するような、客観的な市場分析、説得力のある収支計画、そして適切な資金計画を盛り込むには、専門的な知識と経験が必要です。税理士などの専門家は、数多くの創業計画書作成を支援しており、金融機関がどこを重視するかという「ツボ」を心得ています。ご自身で骨子を作成し、専門家と一緒にブラッシュアップしていく形が、採択率を高める最も効果的な方法と言えるでしょう。